彼女は、美しかった。
彼女の黒くて長い髪は、風に揺れとても綺麗だった。
彼女の笑顔は、どこまでも明るく輝いて素敵だった。
彼女の瞳は、きらきらと輝いていた。
彼女の肌は、光を受けた水面のように透き通った綺麗な白だった。
彼女は、美しかった。
彼女との出会いは、
僕がまだ、東京の真ん中に住んでいたあの頃・・・
その日は、とても優しくて暖かい日ざしが町を包んでいた。
その町の名は、「恵比寿」
今は、駅の周りも賑やかになり、あの頃の面影は、消えかけている。
あの頃、あの町は、まだ駄菓子屋があったり住む場所も沢山あって渋谷の隣とは思えない位、普通の町だった。あの日、あの町のあの場所で僕は、彼女に出会った。
ある日、僕は、友達と友達の家のそばにある駐車場の脇の空き地に秘密基地を作った。
その駐車場は、恵比寿と中目黒の中間位の場所だろうか?
隣にある学校のチャイムが心地良く聞こえ、高台になっていたその場所は、中目黒の町が見下ろせた。
駐車場の隣には、マンションが並んで建っていてその白い壁は、太陽の破片で輝いて見えた。
駐車場には、Zやセブン等のスポーツカーが沢山並んでいた。
多分場所が悪く駐車場代が安かったのだろう。
停めている人も若いお兄ちゃんが多かった。
真っ赤なケンメリが停まっていた。隣には、銀色のハコスカ。
今でも、はっきりと覚えている。
二人のリーゼントのおにーちゃんがやってきて、ボンネットを開けると楽しそうに中をいじりだした。
僕達が基地を作っているのを見付けると近くに来てこう言った。
「何してんだい。楽しそうじゃん。」
「基地作ってるの」
「スゲー本格的じゃん。」
「家にある段ボールやるよ!」
そう言うとどこかに消えて次に戻ってきた時には、段ボールを沢山抱えていた。
「これ飲みな!」
おにーちゃん達は、コーラまで持って来てくれていた。
「あの車かっこいいね」と言うと
「スカイラインって言うんだ。空と地面の間を駆け抜ける為の車さ!最速でな!いかしてるだろ!覚えときな!こいつがケンメリでこいつがハコスカだ。おまえが免許を取れる頃には、もう化石かもな・・・はははは」
「じゃあ またな!」
二人は、そう言うとスカイラインのエンジンをかけて走り去っていった。
今思うとあの音は、異常だった。なぜならとてもうるさかったから・・・
でも、二人とスカイラインは、どこまでも格好良かった。今でも、はっきりとそう言える。
憧れっていうやつなんだろう。
僕達は、段ボールに廃材に古タイヤ等、その辺にある物を全て使って、基地を作り続けた。
次の日には、二人のおにーちゃんから卓袱台が進呈された。
二人には、会えなかったけど、卓袱台には小さなメモが付いていて(スカGの兄ちゃんです。良かったら使いな。)って書いてあった。
「スカGって何?」
「さぁ?」
「でも、昨日のお兄ちゃんじゃない?」
「そうだね!」
ハコスカやケンメリをやっと覚えた少年にスカGが理解出来るはずも無く、あんまり気にせずに僕達は、基地を作り続けた。くる日もくる日も作り続けた。
ある日、僕は白い壁のマンションの二階か三階の窓からいつも外を見ている女の人がいる事に気付いた。
その人は、いつも窓から、外を見ていた。
そしてあの日、その人は、友達に
「何してるの?いつも楽しそうだね。」って声をかけてきた。
「基地を作ったから遊んでいるんだ」友達が答えた。
「基地かぁ じゃあ食料が必要だね!ちょっと待ってて!」
少しして、その人は、飴玉を窓から投げてくれた。
僕は、なぜか照れ臭くてあの日彼女に何一つ話が出来なかった。
ただ、友達が話しているのを聞きながら笑っていただけ、それだけだった。
でもあの日から僕達は、友達になった。
次の日も次の日も彼女と話したり、おやつを貰ったり、どんぐりをプレゼントしたり、楽しく過ごした。
ある日、彼女は、僕達に自分の事を話し始めた。
「私ね。病気なんだ・・・学校にももう三ヵ月も行ってないのよ。ずっと病院で入院していたの。ほら、最近暖かくなってきたでしょ?だから、病院抜け出しちゃった。でも、学校には、行けないんだ・・・」僕は、彼女に言った。
「毎日学校であった事を教えて上げるよ。」
「嬉しいなぁ 楽しみにしてるね。遊びに来たらこのスーパーボールで窓を叩いてね。」
「分かった!」
空から降ってきた大きなスーパーボールは、地面に叩きつけられて大きく空に舞い上がった。僕達は、みんなで取り合うようにジャンプ。
そして、大きなスーパーボールは、僕の掌に収まった。
僕は、それを大切にポケットにしまった。
彼女の名前は、聞いたけど思い出せない。
「おねぇちゃん」ってみんな呼んでたし、僕もそう呼んでいたから・・・
年令は、当時十六才。
そして、高校生だけど病気が治らないから学校には行けない。
空が好きで青い空を見るのが大好き。
僕が知っている彼女のプロフィールの全てだ。
僕の報告会は、毎日続いた。違う所で遊ぶ時も彼女に会いに行ってから、僕は遊びに行った。
一人でも会いに行った。三月に出会ってから四月、五月、六月と毎日。雨がひどくて行けない時を除いて毎日。
色々な事を話した。
忘れてしまった事の方が多いけど、たわいのない事ばかりだけど・・・
なんてことない話を彼女は、微笑みながら聞いてくれた。
その笑顔が見たくて、僕はあの場所に行った。
話の内容は、例えばこんな感じだった。
駐車場に着くと僕は、スーパーボールを窓に軽くぶつける。
暫くすると太陽の破片で輝いた白い窓が開いて彼女が笑顔を覗かせる。
「おかえり、今日は、どうだった楽しかった?」
彼女は、微笑みながら聞く。
僕は、学校であった事を一時間目から五時間目まで更に、休み時間、給食と一日の全てを話して行く。
彼女は、楽しい事も嫌な事も悲しい事も全てを微笑みながら聞いていた。
時折、アドバイスや感想、質問を挿み、話を上手に引き出してくれた。
僕は、彼女に話をして上げなくちゃって思っていたけど、今、思うと話をしていて本当は、とても心地良くて救われていたんだと思う。
彼女は、彼女で病気の事やちょっとした物語を話してくれた。
ほとんどがはっきりとは、思い出せないが、物語には、天使や妖精が出て来て全体が優しさに包まれているそんな印象だった。
病気の話しは、難しくて良く解んなかったけど、病院の話は、白い壁と白い天井そして少しだけ見える空、優しさにカモフラージュされた嘘付きな医者の顔が頭に浮かんだのを覚えている。病院が嫌いなんだなぁって思った。
最後に「またね」って言っていつも帰った。
梅雨の季節がやって来て雨が降り続いた。僕は、彼女に会えない日が続いていた。
たまに雨が止むと僕は、彼女に会いに行った。
たまった洗濯物をたたむように次々と、僕は話をした。
彼女は、それを楽しそうに微笑みながら聞いていた。
梅雨が終わりを告げようとした日。その日は、朝から曇っていた。
学校が終わると僕は、直ぐに家に帰らずに彼女の所に行った。雨が降りだす前に行こうと思ったからだ。
スーパーボールで窓を叩くと、彼女が顔を出した。
「今日は、早いねぇ。どうしたの?」
「雨が降る前に来ようと思って・・・」
「そっかぁ ありがとう。もう降りだしそうだねぇ。あっ あっちの空、光った!」
空は、今にも泣きだしそうに暗くなっていた。
次の瞬間、ゴロゴロゴロと遠雷が鳴り始めた。
「夏が来るねぇ。たかーい空の夏が・・・青い空に大きくて綺麗な白い雲が浮かぶの。早く見たいなぁ。最近ね。ちょっと調子が良くないの。だから、元気になれるような空が見たいんだ!」
「どんな空が一番好き?」
「うーん、やっぱり・・・雲一つ無い突き抜けた真っ青な空かな・・・昨日ね。誕生日だったんだ。十七才になったんだよ。」
彼女が言葉を言い終わるのを待つ様にしてポツポツと大粒の雨が落ちてきた。
「あっ 早く帰んないと夕立がひどくなるよ。そうだ傘貸してあげるね。私のお気に入りの水色の傘。」
そう言うと紐でえをくくった傘が下りてきた。
「ありがとう。お誕生日おめでとう。またね。」
僕は、そう言うと走って家に帰った。
雷鳴は、鳴り響き雨は滝のように降ってきた。
家に帰った僕は、母に聞いた。
「夏の空はいつ見られるの?」
母は、「この雷と雨が上がったらきっと夏が来るわよ。」と言った。
部屋には、エルビスのレコードが流れていた。母は、よくエルビスを聞いていた。
次の日、空は、高かった。
そして、雲は、どこにも無かった。
きっと彼女は、この空を見ている。
僕は、そう思った。学校にいる時も、僕は教室の窓から空を見ていた。
その日の、国語の時間に先生は、突然みんなに質問した。
「この作品の最初の一文には、空が出てくるけどこの空には雲があるかな?」その一文をはっきりとは覚えていないが、僕は、真っ青な空という言葉を見て、雲は無いと思った。
彼女の好きな空だ。一緒だって・・・・・。
ところが、クラスの中で雲は、一つもないと答えたのは、僕だけだった。
答えは、雲は、一つもないだった。
本当は、雲が無いという理由は、次の文章の主人公の心情を表す文章に隠されていたのだが良く覚えていない。
先生は、「すごいなぁ 良く解ったなぁ」とベタ誉めだった。
滅多に誉められる事のない僕は、上機嫌だった。
今日は、この話をしよう。
僕は、上機嫌で彼女に会いに行った。急いで家に帰り、あの場所に向かった。
ところが、駐車場は、いつもと様子が変わっていた。入口には、パトカーが止まり、人が入らないようにおまわりさんが立っていた。
何があったのかと思っていたら、スカイラインが出てきた。
リーゼントのおにーちゃんは、僕に気付くと車を停めて言った。
「今日は、帰りな。入れないぜ。入んない方が良いしな。じゃあな」
スカイラインは、爆音で走り去っていった。
僕は、仕方なく家に帰った。
その日の夜、僕は熱を出した。本当は、朝から少し調子が悪かった。
昨日の夕立で濡れたのが原因で風邪をひいたらしかった。
僕は、借りた傘を差したけど走って帰ったから、途中で沢山濡れていたのだ。
次の日から二日間、学校を休んだ。
もちろん、彼女にも会えなかった。
早くあの話を教えて上げたい。そう思った。
三日目にやっと熱が下がり、僕は学校に行った。
帰りに、僕はそのまま彼女の所に行った。
彼女は、空を見ていた。僕が手を振ると彼女は、微笑みながらこっちに手を振りかえした。
「早かったね。」
彼女は、そう言って微笑んだ。僕は、伝えたかったあの話をした。
彼女は、じっと微笑みながら話を聞いていた。
僕が話し終えると「良かったね。」と一言言った。
そして今度は、彼女が少女と天使の話をしてくれた。
僕は、全てを話せた事に満足していた。
帰り際に彼女は、「さよなら」と言った。
僕も「さようなら」と言った。
帰り道、僕は、傘を返していない事に気付いた。
明日返そう!僕は、空を見上げた。
次の日、僕は傘を返しに行った。
白い窓は、閉まっていた。
僕は、スーパーボールを窓に当てて彼女を待った。
彼女は、出て来ない。
少し、待ってもなかなか出て来ないのでもう一度スーパーボールを窓に投げた。
彼女に似た女の人が顔を出した。
「何をしているの?窓が割れちゃうからやめてね。」
その声は、怒っていると言うよりは悲しそうだった。
僕は、「借りた傘を返しに・・・」
そう言うと傘を見せた。
「あぁ あなたが小さいお友達ね。」
そう言うとその人は、僕に上がってくるように言った。
始めて行く建物を何となく歩いてゆくと彼女の部屋と思われる所の前に、さっきの人が立っていた。
「さぁ どうぞ」
言われるままに、僕は中に入って行った。
「ここがあの子の部屋よ。」
通された部屋は、白で統一された部屋だった。
窓と並ぶようにベットが置かれていた。
窓から外を見ると、駐車場や町や空が見えた。
「おねぇちゃんは?」
そう聞くと、その人は泣きながら話しだした。
僕は、彼女の家を出るとお辞儀をして走って家に帰った。
泪が止まらなかった。信じられなかった。信じたくなかった。
彼女は、あの突き抜ける真っ青な空の日に死んでしまった。
彼女は、真っ青な空に向かって飛び込んだ。
きっと空高く、魂は飛んだのだろう。
でも、彼女は、死んでしまった。
彼女は、余命三ヵ月と言われていたらしい。
病院を出たのは、自宅療養という名の手の施し用の無い医者の逃げ口上だったようだ。
彼女には、もちろん知らされていなかったが両親が話しているのを彼女は、聞いてしまったようだ。
僕は、最後に彼女に会った日の事は黙っていた。
いるはずのない彼女との最後の会話・・・・・。
信じて貰えるはずも無いと思った。
僕の胸に閉まっておこうと・・・・・。
いつか、自分で全てを受け入れられるまで誰にも言わずに黙っていようと。
あれから、長い時間が経って、僕はあの全てがやっぱり真実だと人に言える。
そう思えるようになった。あの最期の言葉「さよなら」は、僕と彼女の最後に必要だったのだと・・・・・。
だから彼女は、最後の話を聞きに来てくれた。
僕が話したかった話を聴きにきてくれた。
「さよなら」を言いに来てくれた。
たぶん、普通の人は信じないだろう。でも、それでも良い。
僕は、最後の彼女の笑顔を覚えている。
彼女の最後の姿を覚えている。
彼女は、美しかった。
さて、
彼女と最後に話したのは、夏の空に白い雲が雄大に浮かんだ午後。僕の話が終わると、彼女は空を見上げた後、そっと目を降ろし話し始めた。
ある所に少女が居たの。
その少女は、死んでしまって天国にいた。
少女は、お母さんやお父さんが悲しんでいるのをじっと見ていた。
ある日、少女の所に天使がやってきて話し掛けたの。
「やぁ 気分は、どうだい?天国には、慣れたかい。」って。
少女は、「ええ とっても素敵な所ね」って答えた。
天使は話を続けた。
「確かに素敵な所だね、ここは・・・・・。
でも、退屈だ・・・・・。
君は、きっと元いた世界に帰りたくなるよ。
だけど帰れない。
そして、君はとても悲しくなる。
でも、そんな思いは、いつかなくなるよ。
この天国は、みんなが楽しそうに笑って暮らしている。
争いも無いし、とても平和だ。
だけど、人には、命があって、心があって、感情がある。
矛盾しているけど辛い事や悲しみがあるから幸せを感じられるんだよ。
美しい物や美しい事、色々な全てを悲しい位に愛して生きているのさ。
だけど、ここに長く居ると感情が無くなってしまう。
平和で平穏な日々は、退屈に変わってしまうんだ。
そして、みんな思うんだ。
あぁ、生きていた頃が懐かしい。生きているって事は、素晴らしい。
なんて、大切な事を忘れてしまっていたんだろうって・・・・・。
そして、気が付く。全てが美しく輝いているのは、永遠では無く、限られた時間の中に存在(ある)からなんだって・・・・・。」
少女は天使に言った。
「私は、幸せよ。だって苦しみからやっと解放されたんだもの。」
天使は、それを聞くと
「それは、良かった。
君は、今、幸せなんだね。
その、気持ちを忘れちゃいけないよ。
そして、悲しいっていう気持ちも忘れちゃいけない。
二つは、同じものだから・・・・・。
決して、離してはいけないんだ。」
天使は、そう言うと空高く舞い上がって行った。
少女は、天使の羽を見上げながら、泪を流した。なぜ、泪が出たのか解らなかったけど、少女は流れる泪を止められなかったの。
僕には、この話の意味が良く解らなかった。
今、こうしてこのストーリーを何となくしっかりと思い出せる事も不思議で仕方がないくらいだ。
ひょっとしたら彼女の作った通りのストーリーではないかもしれない。
ストーリーは、こんな内容だったけれど、話し方は違ったかもしれない。
全ては、夢かもしれない。
幻かもしれない。
引っ越してから数年経って、僕は急に行きたくなってあの場所に行った。
でも、行けなかった。場所が見つからない。
それから、ずっとあの場所を探していた。
でも、見つけられなかった。あんなに毎日行っていた場所なのに・・・・・見つからなかった。
二十七歳のある日、突然夢を見た。
あの場所に行く夢だ。
白い窓から彼女が、手を振った。
僕は、彼女に何かを言いかけた。
夢から覚めた。
夢を思い出しながら地図を書いた。
あんなに探した筈の町の片隅に、その場所は普通に存在していた。
休みの日に、僕はあの場所に行った。
着いた途端に泪が止まらなくなった。
あの白い窓に彼女は、もちろん居なかった。
でも、はっきりとその姿は、思い出せる。
彼女は、美しかった。
彼女は、可憐だった。
彼女は、綺麗だった。
彼女は、死んでしまった。
もう二度と帰らない。
もう二度と微笑まない。
もう二度と笑わない。
僕は、彼女が好きだった。
僕は、彼女を守れる強さが欲しかった。
僕は、彼女を幸せにしたかった。
僕は、だけど小さくて何もしてあげられなかった。
なぜ、彼女は、夢の中で笑って手を振ったのだろう。
なぜ、僕は、言いかけた「好きだ」って言葉を伝えられなかったんだろう。
彼女の最後の話には結末がなかった。
今、僕が付けるとしたらこうだ。
少女は言う。
「神様は、残酷だわ。私達にこんなに辛い感情を与えたんだから・・・・・。」
彼女は、空を見上げた。
そして、風を感じ、花の香りを感じ、白い雲が流れるのを感じ、透き通った空に吸い込まれる瞬間を感じた。
「あぁー違うわ。全ては、幸せを感じる為にあったんだわ。
神様は、あえて、感情を残してくれた。
私が死んだ事をみんなが悲しんでる・・・・・。
それは、幸せだったから・・・・・。
でも、いつかきっとみんな笑顔を取り戻すわ。
だって、悲しみや全ての辛い事を乗り越えて、みんな強くなるから・・・・・。
私も、悲しいし、淋しいわ。
でも、大切な人達の心に私は居る・・・・・。
だから、幸せなの。」
どこからか天使の声が聞こえた。
「そうだよ。大切な事・・・・・忘れちゃいけないよ。
生があるから死がある。
死があるから、生きる。
君は、生きていた。
だから、死んだ。
沢山の周りの人に、君が知らない間に沢山のメッセージを残してね。
それに気付いた者は、強くなる。
そう、君を心にしまうんだ。
悲しみと喜びとともにね。
生きる事に無駄な事なんてないように、人は、みんな意味が有って存在しているんだよ。
大切なものは、目には見えない。
だから、気付きにくいのさ。
そしてややこしい。
だけど、目には見えないけど存在している。
そして解る人には伝わる。忘れちゃいけないよ。けして・・・・・。」
彼女は、美しかった。
綺麗な瞳をしていた。
長くて黒い髪は、風に揺れていた。
白くて綺麗な肌は、太陽の破片で輝いていた。
明るい笑顔は、世界を包んでいた。
彼女は、美しかった。
僕の心の「白い窓」には、今日も彼女が微笑んでいる。
END
この物語の一部には、私が大好きなSIONの「12号室」という曲の詞からアイデアを頂いています。
この物語は、ある意味ではフィクションで、ある意味ではノンフィクションです。
なぜなら、この物語には、モデルとなった人達がいるからです。
私が、まだ小学生だった頃に、私は、その人達と出会いました。
彼女は、もうこの世には存在しません。
彼女も病気で、この世を去りました。
彼女と過ごした時間は、あまりにも短く、私の記憶の中で、彼女のことではっきりと覚えているのは、とても笑顔が素敵な人だったということです。
彼女の死は、私にはとてつもなく重く、そして、到底受け入れられるものではありませんでした。
彼女は、私に色々なことを教えてくれ、私の心にいつも光を与えてくれていました。
私は、彼女とのやり取りの全てをはっきりと覚えてはいませんが、それでも、彼女から多くのものを受け取ったと感じています。
彼女と過ごしたあの日々の中で、私は彼女から様々なことを学び、そして、心にしまいました。今の、私の一部は彼女から与えられたもので満たされています。
彼女は、本当に透き通ったそんな存在でした。
でも、私には、彼女の死を受け入れられるだけの強さがありませんでした。
だから、必死に忘れようとしました。
その後、私は、引っ越しをし、本当に彼女のことを深い心の中にしまい込みました。
新しい町で、中学生になった私は、いつしか詩を書いたり、物語を書いたり、自分で曲を作るようになりました。
自分を表現し、それを形にすることをし始めたのです。
しかし、そんな活動は、24歳のある日を境に色々なことがあって閉ざされてしまいました。
それから、8年間という時間を、私は一切の表現活動をせずに過ごしました。
ある日、私は久しぶりに手にしたギターで鼻歌を歌っていました。
何気なく手にしたギター。でも私は、突然、歌を作って歌いたいという感情に襲われました。
自分には、伝えたいことがあるって思ったんです。
実は、彼女は、物語を作ったり、話したりすることがとても好きで、色々な話を私に聞かせてくれていました。彼女もまた表現することが好きだったんです。
私は、思いました。
彼女のことを残さなくてはいけないと・・・・・・。
彼女の存在の一部を形にして、残さなければいけないと・・・・・。
この物語は、彼女の存在した証しです。
話そのものは、私が作った物語ですが・・・・・・。
でも、この物語には、彼女が私の心に刻んだ想いが存在します。
この物語は、彼女が生きた証しです。
彼女は、この物語の少女のように、窓から落ちて亡くなりました。
一応、自殺ということになってしまっているそうです。
でも、彼女は、自殺をする様な人ではありませんでした。
だって、生きることや生きることの素晴らしさを私に教えてくれた人ですから・・・・・。
でも、警察は病気のこともあり、彼女の日記にその苦しみ等が書かれていたこともあり、自殺と判断したそうです。
でも、彼女の落ちたその場所には、彼女が物語を書き綴ったノートが一緒に落ちていたそうです。
最後のページには、新しい物語の構想が書かれていたそうです。
彼女のお母さんが私に教えてくれました。
事故か自殺かは、私には正直解りません。
ただ、思います。
彼女が、書きたいと思っていた物語を作ることなく死ぬこと等ないのではないかと・・・・・・。
彼女が最後に書こうとしていた物語は、妖精と少女の話でした。
私は、この「白い窓」の最後に、彼女の意思を引き継いで、妖精と少女の話を作りました。
その物語が、このホームページ上のStoryに最初に載せた「メロディー」という物語です。
私は、どうにかして、彼女が書くことの出来なかった物語を形にしたいと思いました。はっきり言って、この「白い窓」という物語も「メロディー」という物語も上手くないし、満足のいく内容ではありませんが、でも、それでも、私は、取り敢えず、自分に課した課題はこなせたように感じています。
長々とお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
それでは、また、いつか、次の作品で、お会いしましょう!!